みっか坊主日記 弐(2)

手裏剣(しゅりけん)道場の師範がつづる突発的ダイアリー<続編>

藍の型染め体験

●藍(あい)色はわが国の伝統色の一つであって、武士も「勝色(かちいろ)」といって尊びました。
剣道着には、藍染めされたものが多いです。

●さて先日、「埼玉県立歴史と民俗の博物館」で、久しぶりに藍染め体験しました。
しかし「型付け」の藍染めは今回が初めて。

●型付けでは、まず湿らせた綿布に型紙を置き、その上からモチ粉やヌカなどを混ぜてつくったノリを塗ります。
その後、ノリにおがくずをかけて乾かし、藍甕(あいがめ)で二度染めするのです。
水洗いするとノリのとれた部分だけが染色されず、白く模様が残る……というあんばい。

●ヘラでノリを置く作業が思った以上に難しく、なかなか均一に延ばせませんでした。
が、講師が手直ししてくれたこともあり、完成品は細い線もかなり鮮明に出ていて、私はしばし感動。

●作業時間は約5時間と、結構な長丁場でした。
そこで休憩中、最寄り駅前をブラブラし、肉屋の軒先にて「ドリームジャンボチキンカツ」を発見。
それを歩きながら食べたのですが、お肉がシットリとしていて実に美味でした。

藍染めは、暗所で1か月間くらい寝かせたほうが定着するそうです。
すると、使いぞめは年末か年始あたり。
いやぁ……あっという間に、今年もあとわずかとなりました。

しかけ豆本ワークショップ

千葉市美術館でおこなわれた「飛び出すしかけ豆本(まめほん)」のワークショップに参加してきました。
講師は、豆本消しゴムはんこの作家である服部エリカ氏です。

豆本とは、てのひらにおさまる程度のミニチュア本のこと。
本講座の主旨は、服部氏が用意した消しゴムはんこ印影の切り抜きなどを使い、「見開き4シーンのとび出す絵本を作ろう」というものでした。
以前、上製本体験をしたことがあるのですが……この豆本づくりも基本的には同じ。
見返しと表紙の接着がいちばん難しかったです。

●なお、企画展示室では絵本作家・荒井良二氏の展覧会が開催中でして、まずはその荒井作品を見学し、彼の色づかいやモチーフなどをお勉強。
夜景にひそむ幻想的な騒々しさや、月あかりの……一見静かそうで……どこかヒステリックなまぶしさに、インスピレーションを受けた次第です。

●そこで私がつくる絵本は、「暗闇におびえる子どもが、出会った動物たちを乱暴に投げ飛ばしながら<暗くてコワいじょ!>と、夜の森をさまよい続ける物語」に決定しました。
タイトルは、ズバリ「くらくてこわいじょ」です。

●絵が飛び出すメカニズムはたいへんシンプルで、実に目からウロコ。
ただし、そこには繊細な調整が不可欠であり、結構手間取ります。
ともあれ、ノリとボンドの接着力をうまく使いわけるコツなどを、約3時間かけて学びました。

●持ち帰った豆本を妻に見せたところ、「この主人公のモデルは私かな?」との指摘をちょうだい。
ははは……バレたか。
さらに、「トモオさんのシュールな発想って絵本向けかもね」という、おほめの言葉もいただきました。

●なるほどなぁ。
絵本作家にもあこがれますね。

テルマエ展

山梨県立美術館で開催中の「テルマエ展」にいってきました。
テルマエ・ロマエ」というマンガとのコラボ企画で、同コミックは映画化もされたほどの人気作。
わが妻が愛読していたため、一都二県の遠路をはせ参じたワケです。

●「テルマエ・ロマエ」は、公衆浴場が発達していた古代ローマから、世界有数の入浴文化と機械文明を有する現代日本へとタイムスリップした建築士のドタバタコメディ。
しかし、本展は、ローマと日本の公衆浴場と、入浴に関連した市民生活の紹介が軸でした。
つまり、マンガの主人公はイメージキャラクターとして登場する程度。

●さて、ローマの浴場は、無料もしくはワイン1リットルの4分の1程度の料金で利用できたらしい。
また、冷浴・温浴・熱浴が設けられ、今日のスーパー銭湯なみにサービスが充実していたようです。
その施設維持には高度な水道技術や、奴隷の労働力が不可欠だったこともあって、次第に衰退していきました。

●私は入浴器具である「肌かき器」に注目。
これは、あかすり用の金属棒で、見た目は「鉄の爪」といった印象です。
率直にいえば、拷問道具みたい。

●なお、火山活動が活発なわが国では……「日本書紀」にも湯治の記述があるくらい……古くから温泉文化が栄えてきました。
清浄を重んじる仏教の伝来以降は、さらに入浴の習慣が浸透したとのこと。

●「信玄のかくし湯」で知られる山梨県はぬる湯が多く、「もっとも古い温泉宿」のギネス記録も保持しています。
そのあたりの展示にも結構なスペースをさいており、内容は盛りだくさんでした。

●妻は、「解説文が多すぎて眠くなったじょ」とやや消沈。
「お風呂だけに風呂敷を広げすぎたんだな」という私のダジャレで、彼女はますます不機嫌に……肌かき器でひっかかれそうな殺気すら感じました。

●拝観後は、定宿で源泉かけ流しを堪能。
山梨の湯は「飲泉」しておいしいのも魅力です。
今回も、タラフクちょうだいしました。

●ちなみに、テルマエ展は11月5日までです。

マボロシ同窓会の話

●今月、52歳の誕生日をむかえました。
あまり自覚はないのですが……体力とか気力も、十代や二十代のころとは違ってきているはずです。
生活習慣病の心配なども、頭をかすめる今日このごろ。
そんな気分に誘われたのか、おととい、中学校の同窓会に出席する夢を見ました。

●会場は、ちょっと変わったつくりの居酒屋。
ホール中央がドリンクバーになっており、そこからすべての座敷とテーブル席が見渡せるようになっています。
「お飲み物を選ばれたら、ご旧友の集まる卓を、楽しみながらお探しください」と店員に案内され、私は早速、店内をぐるりとながめました。

●すると、それらしきオジさん一名を即発見。
彼は、思春期の時点ですでに「くたびれたオジさん」っぽかったため、すぐにピンときたのです。
その後、同窓生らと約40年ぶりのあいさつを交わしました。

無神論を唱えていた学級委員長がお寺の管理人になっていたり、ふんわりとした家庭的な雰囲気の女の子が茶髪のフリージャーナリストになっていたりと、クラスメイトたちは予想だにしなかった道を歩んでいました。
ただし、誰の話を聞いても、どうも大した興味を抱けずじまい。

●夢の話とはいえ、「自分の生活から離れた人びとは、こんなにも遠い存在になってしまうのか!」と、ちょっとビックリしました。
「しかし、これが人生なんだろうな」と、静かにうなずいた次第です。

●なお、このマボロシの同窓会でも、私はお酒を鯨飲。
「二日酔いが残るだろうなぁ」という憂うつだけが、妙にリアルに残っています。

●まっ、改めて「そういう年ごろなんだ」と自戒して、健康管理には極力気をつけてまいります。

七面山とクマの親子

山梨県にある「七面山(しちめんさん)」は、日蓮宗総本山「身延山(みのぶさん)」の守護神とされる「七面大明神」が鎮座する霊山です。
七面大明神をまつる「敬慎院(けいしんいん)」までは片道約3時間、山頂だとさらに1時間くらいかかります。
「かなりキツいコース」と聞いていたものの、ぜひ一度登ってみたいと思っていました。

●先日、ようやく妻と行ってきたのですが……これがうわさ以上にハードな登山でビックリ。
私だけだったら、途中でひき返していたかも知れません。

●たいていの山道は、登る途中に平坦な場所や下り坂があったりします。
しかし、ここはひたすら急こうばいが続くのです。
また、小石と砂利が散らばる足場の悪さゆえ、下山の際も相当に体力を消耗します。
さらに季節がら、かく汗の量がなみ大抵ではありませんでした。

●さて、その山中にて、生まれて初めて野生のクマと遭遇しました。
「大崩れ(なないたがれ)」という崩落した崖を眺め歩いていた時のことです。
イヤに黒っぽい二つの繁みが視覚のすみに入り、その繁みがこちらをふり向いた時に「ツキノワグマの親子がいる!」と気づいた次第。

●7メートルもない超至近距離だったので……彼らが本気でおそってきたらホンの一瞬です。
私はとっさに、足元に落ちていた長めの枝を拾いました。
そして、「枝の強度がわからないから叩いてはダメだ。突いたほうがダメージを与えられるだろう」と、覚悟を決めました。

●が、クマ二匹はこちらを凝視して動きません。
そのスキに、シッカリとした枝をもう一本つかみ取ることができました。
「最初に拾った枝は折れても構わない」と判断して、そばにある木や岩にバンバン叩きつけ、銃を発砲したような音を連発するのに成功。

●すると、子グマがまず、近くの木にスルスルとかけあがりました。
その子グマは、「シュッ。シュッ。シュッ」とヤカンが沸騰した時みたいな奇声をあげていましたけれど、親グマはそれを見届けると、おもむろに背を向けて逃走。

●私の対処が正しかったのかどうかはわかりませんが……このようなイキサツで、とりあず危険を回避できたのです。
「子連れのクマは危ない」との知識が頭にあったので、本当に緊張しました。
このできごとを、参籠した敬慎院のお坊さんたちに話したところ、「クマがいるだろうとは思っていたけれど、目撃談はこれが初めてです」といわれました。

●そんなワケで、最後に一言。
「いやぁ、クマった」

クルドの話

●東京都北区・十条駅前にある「メソポタミア」は、日本で唯一「クルド料理」の看板をかかげているお店。
そのオーナーであるワッカス・チョーラク氏は、日本クルド文化協会事務局長や、東京外国語大学クルド語講師もつとめています。
先日、彼の講座にいってきました。

クルド人は、中東に広くにまたがって生活してきた山岳民族です。
しかし、第一次世界大戦によるオスマン帝国崩壊で、クルド人居住地は、シリア・イラク・イラン・トルコなどに分断されました。
その結果、クルド人は、世界最大の「国を持たない民族」となったのです。
推定人口は、3千万人~4千500万人とのこと。

●ちなみに、クルド語は4つの方言でなりたっており、標準語がありません。
ワッカス氏が大学で教えているのはクルマンジー方言。
その方言は、クルド人の約70%が使っているそうです。

●さて、クルド料理の基本調味料は、トマトと唐辛子をペースト状にした「サルチャ」です。
肉類ではラムが好まれ、串焼きの「ケバブ」は、わが国でもなじみのあるメニュー。
ヨーグルトもよく使われる食材であり、塩などを入れて飲んだり、ヨーグルトの冷静スープも定番とのこと。
自生のピスタチオ豆が原料である「メソポタミアコーヒー」も、人気が高いらしい。

●なお、今回の講義では、クルドスイーツの実習が目玉だったものの……ワッカス氏の身内に不幸があって準備が間に合わず、急きょ中止となりました。
代わりに「レワニ」というトウモロコシの粉でつくったケーキと、「チャイ」と呼ばれる紅茶を頂戴。

●「クルド菓子はメチャクチャに甘い」と聞いていましたが、レワニはさほどでもなし。
「生地があらいマドレーヌ」といった印象でした。

●ともあれ、中東の歴史はかなり複雑で巨大です。
差別や弾圧に苦しんでいるクルド人問題も、勉強しはじめるとキリがない。
そのうち、腰をすえて学びたいと思っています。

国立劇場歌舞伎鑑賞

●今年10月に閉場する国立劇場へいってきました。
いただきもののチケットをムダにせぬよう、大慌てで仕事を切りあげ、開幕ギリギリにすべり込みセーフ。

●演目は「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)」でした。
主演は中村芝翫(なかむらしかん)で、彼の前名は中村橋之助(なかむらはしのすけ)といいます。
元アイドルの三田寛子と結婚した役者ですが、不倫をくり返し、その都度マスコミに叩かれているみたい。

●それはさておき、久しぶりの歌舞伎鑑賞は思った以上に楽しかったです。
最初はちょっと退屈だったものの……コミカルな展開にひきつけられました。
また、セリフに「関口流柔術が出てきたり、「手裏剣でホクロをきり落とす」という神技があったりと、古流武術家のハートをくすぐるシーンもポイントでした。

●しかし、一番印象に残ったのは、私の前に座っていたオジさん。
幕開けと同時にイビキをかき出し、幕引き寸前に目を覚ますなり、いの一番に帰っていったのです。
彼はいったい、何をしにきたのでしょう?

●この話を妻にしたところ、「誰かからもらったチケットをムダにしたくなかったんだよ。トモオさんと同じタイプの人だね」といわれました。
なるほど。
歌舞伎に親しみがないオジさんで、さらに彼の場合、関口流や手裏剣にも興味がなかったのかな?

●でも、居眠りのためだけに劇場へ足を運ぶとは……律儀なんだか、ヒマなんだか。
やはり、変わった人だと思います。