●山梨県にある「七面山(しちめんさん)」は、日蓮宗総本山「身延山(みのぶさん)」の守護神とされる「七面大明神」が鎮座する霊山です。
七面大明神をまつる「敬慎院(けいしんいん)」までは片道約3時間、山頂だとさらに1時間くらいかかります。
「かなりキツいコース」と聞いていたものの、ぜひ一度登ってみたいと思っていました。
●先日、ようやく妻と行ってきたのですが……これがうわさ以上にハードな登山でビックリ。
私だけだったら、途中でひき返していたかも知れません。
●たいていの山道は、登る途中に平坦な場所や下り坂があったりします。
しかし、ここはひたすら急こうばいが続くのです。
また、小石と砂利が散らばる足場の悪さゆえ、下山の際も相当に体力を消耗します。
さらに季節がら、かく汗の量がなみ大抵ではありませんでした。
●さて、その山中にて、生まれて初めて野生のクマと遭遇しました。
「大崩れ(なないたがれ)」という崩落した崖を眺め歩いていた時のことです。
イヤに黒っぽい二つの繁みが視覚のすみに入り、その繁みがこちらをふり向いた時に「ツキノワグマの親子がいる!」と気づいた次第。
●7メートルもない超至近距離だったので……彼らが本気でおそってきたらホンの一瞬です。
私はとっさに、足元に落ちていた長めの枝を拾いました。
そして、「枝の強度がわからないから叩いてはダメだ。突いたほうがダメージを与えられるだろう」と、覚悟を決めました。
●が、クマ二匹はこちらを凝視して動きません。
そのスキに、シッカリとした枝をもう一本つかみ取ることができました。
「最初に拾った枝は折れても構わない」と判断して、そばにある木や岩にバンバン叩きつけ、銃を発砲したような音を連発するのに成功。
●すると、子グマがまず、近くの木にスルスルとかけあがりました。
その子グマは、「シュッ。シュッ。シュッ」とヤカンが沸騰した時みたいな奇声をあげていましたけれど、親グマはそれを見届けると、おもむろに背を向けて逃走。
●私の対処が正しかったのかどうかはわかりませんが……このようなイキサツで、とりあず危険を回避できたのです。
「子連れのクマは危ない」との知識が頭にあったので、本当に緊張しました。
このできごとを、参籠した敬慎院のお坊さんたちに話したところ、「クマがいるだろうとは思っていたけれど、目撃談はこれが初めてです」といわれました。
●そんなワケで、最後に一言。
「いやぁ、クマった」