みっか坊主日記 弐(2)

手裏剣(しゅりけん)道場の師範がつづる突発的ダイアリー<続編>

越前奉書の話

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●紙は植物繊維を貼りあわせたもので、布は植物繊維を織りあげたものです。
ですから、両者は兄弟のような関係で、上質な紙は布に負けず劣らず柔軟で丈夫。

●特に和紙は非常に頑丈であり、「紙子(かみこ)」という紙製の着物もあるくらいです。
「紙を破れるものは、人体にも穴をあける」という柔術の口伝は、和紙を想定した教えでしょう。

●全国各地に和紙の名産地がありますけれども、福井県の「越前奉書」は、武家がもっとも珍重したブランド。
繊細な刀の手入れにうってつけの「刀ぬぐい紙」としても、使われてきました。

●が、おそろしく高価なシロモノなので……私は、駅前で配っているティッシュを刀ぬぐいに愛用。
ちなみに、駅前で配布されているティッシュペーパーも、結構使い勝手がいいのです。

●しかし先日、独特の皺(シボ)が魅力の山崎吉左衛門製ぬぐい紙を、門人から頂戴しました。
「別漉」という超高級品で、購入すれば1枚千円はくだりません。
とてもうれしかったのですが……奉書を刀剣の手入れに使用する際は、その繊維をやわらげるため、何時間ももみほぐす必要があります。

●早速、もみしだいたところ、えんえんと出てくる紙ぼこりにゲンナリしました。
着ていた黒のスウェットシャツは、たちまち真っ白……。
わが妻は、「うわっ! 製粉工場みたいッス」と、目を丸くしていました。

●私のやりかたが悪かったのでしょうか?
ためしに刀をぬぐってみたところ、刀剣油がシッカリ除去され、心なしか……いつも以上に鉄地が鮮明に見えました。

●ボロボロになるまで、くり返し使えるという越前奉書。
むろん、使い切ったら、駅前ティッシュに戻ります。