みっか坊主日記 弐(2)

手裏剣(しゅりけん)道場の師範がつづる突発的ダイアリー<続編>

埼玉武術英名録展

埼玉県立歴史と民俗の博物館で「埼玉武術英名録」展を見てきました。
剣術や柔術が広く親しまれてきた埼玉県にゆかりある武術諸流派を紹介する企画展です。

●ところで、1880年代、イギリスの「オックスフォード英英辞典」に初めて掲載された日本語をごぞんじでしょうか?
正解は……「富士山」でも「鮨」でもなく……何と「柔術」です。

●身長160センチしかない谷幸雄という武術家が西欧をめぐり、屈強な外国人をバッタバッタと投げ倒し、あっという間に絞め落としたりもして、当時のヨーロッパでは柔術が一大センセーションとなりました。
そういった近世から近代にかけての柔術に関する講話を、筑波大学名誉教授の藤堂良明氏からまず拝聴した次第。

●その後に、展示室を見て回りました。
そこでは、埼玉県を代表する「甲源(こうげん)一刀流」はもちろん、同県で発展した各流派が解説されていました。
神道無念流」の3代目宗家が試斬した太刀「久幸(ひさゆき)」や、「柳剛流」の岡田十内(おかだじゅうない)が愛用した切先諸刃づくりの豪刀が目をひきましたが、竹割を革ひもで編んだ「竹具足」という古い胴防具や、武術修行者のハンドブックだった著名武芸者リスト「英名録」なども興味深かったです。

●なお、甲源一刀流の「神文書」や神道無念流の「演武場壁書」には、「他流をさげむことのないように」との心得がありました。
しかし、他流派の批判をしない武術家というのには、まずお目にかかったことがない。
ちょっと身につまされました。

●「馬庭念流」の伝書「矢留之伝(やどめのでん)」に記された「リンヒヤウヤケンソン アヒラウンケンソハカ」という呪文は、弓矢を刀で斬り落とす際の秘訣とのこと。
また、「奥山念流」の「兵法剣術虎巻秘法」にも、印の結び方や呪文といったオマジナイがめじろ押し。
この手のオカルトくささも、古流武術のだいごみでしょう。

●柔道の創始者嘉納治五郎(かのうじごろう)の師匠である福田八之助(ふくだはちのすけ)は、秩父出身の武術家です。
彼についても、いろいろと勉強できました。
さまざまな武術家と親交があった山岡鉄舟の書画や、大河ドラマで脚光を浴びた渋沢栄一の資料もたいへん豊富で、すべてを見終わった時には結構疲れていました。

●やはり武術は、見るよりやるほうが楽な気がします。